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自閉症の東田直樹さんが中学生の時、その心の内を書かれた『自閉症の僕が跳びはねる理由 ―会話のできない中学生がつづる内なる心』(2007, エコアール)は、作家のデイヴィッド・ミッチェル(David Mitchell)さんによって『The reason I jump』として英訳され、世界に広がったことをこちらでご紹介いたしました。
今日はミッチェルさんについて、DVD『君が僕の息子について教えてくれたこと』(NHKエンタープライズ, 2015)から取り上げたいと思います。

アイルランド在住の作家 ミッチェルさんには、重度の自閉症の息子さんがいらっしゃいました。ミッチェルさんは、コミュニケーションをとることが難しい息子さんと向き合いたくて、懸命に子育てをしていました。しかしながらそれは厳しい道のりでした。自分の思い描くシナリオ通りとは違う子育てに、どうして我が子が自閉症に…という怒りは、時に息子さんに対する怒りにもなったと言います。
突然頭を床に打ち付ける息子の気持ちがわからず、半ば絶望し、どう息子を愛せばいいのだろうかと途方に暮れていた頃、ミッチェルさんは東田直樹さんの著書『自閉症の僕が跳びはねる理由』を知りました。幸い、ミッチェルさんは日本に英語教師として8年間住んでいたことがあったため、日本語の本であっても読むことができたのです。

ミッチェルさんは東田さんの言葉を、まるで息子さんからのメッセージのように感じ取り、重ね合わせて読み進めていきました。そして息子さんの不可解な行動も、すべてに深い理由があるのだと知った時、ミッチェルさんの心は、大きく舵を切り返して進んでいくことになったのです。

暗闇の中に光を与えてくれました。息子が何を考えているのか、以前は全くわかりませんでしたが、それを理解できるようになりました。難解なパズルが解けるような感じでした。
これからの私の人生を変えてくれたと思います。1)

理解することにより、困難や問題を、気持ちの中で楽に考えられるようになったと思います。
2)


1), 2)共に引用DVD:
NHKエンタープライズ(2015)『君が僕の息子について教えてくれたこと』

そしてミッチェルさんは、これまで息子さんの行動の背景にある深い精神世界を知らなかった自分を恥ずかしく思い、罪悪感を感じたのだそうです。それと共に、息子さんの精神は決して破綻しているわけではなく、それを伝えるコミュニケーションが、うまくできないだけなのだと気付かれたのです。

ミッチェルさんは、直樹さんの本がきっと世界の自閉症の家族に力になるだろうと考え、『自閉症の僕が跳びはねる理由』を奥様と共に英訳され、『The reason I jump』として出版されたのです。

その後、ミッチェルさんは来日し、直樹さんと会いました。そこで、東田さんの本が、息子さんを理解するうえでどれほど役に立ったのか感謝を伝えたところ、直樹さんは文字盤を使って、次のように答えたのです。

誰かにとっての喜びになるのは、僕にとっても嬉しいことです。


引用DVD:前掲DVD

誰かの喜びが自分の嬉しさとイコールになるということは、自分の嬉しさが何倍にも広がる可能性を持つということですね。

ミッチェルさんは、直樹さんに質問を続けました。直樹さんの口や文字盤から言葉として紡ぎだされるその思いは、ミッチェルさんにとっては息子さんの答えを代弁しているように思えたのでしょう。

どんなものが怖いかを尋ねると、直樹さんは刺すような人の視線が怖いと答え、一番幸せな瞬間は昔は自然と一体化した時間であり、今は家族で笑っている時や、自分の本の読者から感想を得る時が幸せであると直樹さんは答えられました。
どれもコミュニケーションがキーになっています。
対人関係によって恐怖が生み出され、一方、対人関係によって幸せが生み出されること。自閉症はコミュニケーションが難しいと言われますが、そこから幸せが生み出されていることを、見逃してはいけませんね。

そしてミッチェルさんは、最も聞きたかったことを直樹さんに尋ねました。それは父として自分はどうすればいいのか、どうやって息子を手伝うことができるのか、ということでした。

僕はそのままで十分だと思います。
お子さんもお父さんのことが大好きで、そのままで十分だと思っているはずだからです。


引用DVD:前掲DVD

直樹さんは後で、その時のことを振り返り、次のように語っています。

子どもが望んでいるのは親の笑顔だからです。
僕のために誰も犠牲になっていないと、こども時代の僕に思わせてくれたのが、僕の家族のすごいところです。


引用DVD:前掲DVD

親が自責の念や罪悪感に駆られ、そこにとらわれながら過ごすのではなく、親は親の人生を生き、親はこどもと関係あるなしに関わらず、幸せを享受してほしいと直樹さんは思っているのですね。
きっとそれは、自閉症に関わらず、他の病気のお子さんも同様に考えていると思います。
たとえうまくコミュニケーションがとれなくても、その分、鋭敏に発達した何か力によって、相手の心の奥底にある感情を、察知できているでしょうから…。自分の幸せを犠牲にして、お子さんの幸せを追い求める親の姿は、お子さんの心には負担をもたらすのかもしれません。

 
親も一人の人間。お子さんが幸せになるためには、あなたも共に幸せであることが必要十分条件のような気がいたします。     
長原恵子
 
関連のあるページ(東田直樹さん)
「親の悲しみを上回るもの」
「自信が導く新しい道」
「拡大するこどもの意識」
「深い底にあるもの」
「重症であるほど潜む大きな力」
「幸せの必要十分条件」 ※本ページ
「深まる理解と居心地の良さ」
「病気や障害を伝えることの意味〜親にとって子にとって〜」