病児・家族支援研究室 Lana-Peace(ラナ・ピース)
 
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街角を照らす路傍の街灯

今から6,7年前、働きながら大学生をしていた時のこと、何の教科のレポートを書く時だったのか、忘れてしまったのですが、読んでいた本の中で「日の光を 藉りて照る大いなる月たらんよりは、自ら光を放つ小き燈火たれ」という言葉を見つけ、良い言葉だなあと、書き留めていました。
それが森鴎外の『智恵袋』から引用されていたものだと知るまでに、随分長い時間が経ってしまいました。

人の長
人の長を以て我長を継がんと欲すること勿れ、
人の光を藉(か)りて我光を増さんと欲すること勿れ、
日の光を藉りて照る大いなる月たらんよりは、
自ら光を放つ小き燈火たれ、

是れ鶏口牛後の説の骨髄なり、


引用文献:
※旧漢字はWEB表示の都合上、当用漢字に直しています。
森林太郎(1973)『鴎外全集 第二十五巻』岩波書店, 「智恵袋」p.6

「日の光を藉りて照る大いなる月たらんよりは、自ら光を放つ小き燈火たれ」うーん、実に奥行き深い言葉だなあと思っていたところ、これは鴎外のオリジナルではなくて、ドイツ留学時代に読んだアドルフ・F.V.クニッゲの原著から鴎外が生み出した翻案(※)だと知りました。

※参考文献:
森鴎外著, 齋藤孝訳/責任編集(2010)『森鴎外『知恵袋』一日「ひと粒」の黄金の知恵』イースト・プレス, p.239

翻案とは、既に作られた詩文・小説・戯曲・物語などをベースに趣向を変えて作ったものですが、その原著はいったいどんなことが書いてあったのだろうと興味が湧いて、探してみました。もちろん私はドイツ語が読めないので、翻訳本ですが。そして見つけたのがこの一冊。

A・F・V・クニッゲ著, 笠原賢介・中直一訳(1993)『人間交際術』講談社

ここに書かれていた巻末のあとがきによると、アドルフ・ F.V.クニッゲ(1752-1796)の『Uber den Umgang mit Menschen(人間交際術)』は1788年に初版、第二版が出され、1790には改訂増補された第三版が出版されたのだそうです。笠原賢介氏・中直一 氏が訳されたのはこの第三版とのこと。
220年以上前の本ですが、現代にも十分通じるところが多くあります。
そしてなんと、第11章、612ページにわたる大作です。
この膨大な翻訳の中、いったいどこにあるのかなあと、宝探しの気分でしたが「日の光を藉りて照る大いなる月たらんよりは…」の原典は、ここにありました。

「第一章 人間交際術についての一般的規則と注意事項」より 

五 他人の権威の笠を着てはならない
他人の人の手柄を、自分の手柄であるかのように吹聴してはならない。貴方の目上に立派な人がいる時、人々があなたにも敬意を示してくれることがある。貴方 は、そのことを鼻にかけてはならない。むしろ控えめに「目上の人がいなくて、私一人だけしかいないのであれば、人々は私に敬意を示してくれないかもしれない」と考えるべきである。

世間の人々が、貴方自身の価値を認めてくれるように、貴方は十分に努力をするべきである。

太陽の光で輝く月になるな。
恒星の回りをまわる衛星になるな。
むしろ、小さくてもよいから自身の光で薄暗い街角を照らす、路傍の街灯であるべきだ。


引用文献:
A・F・V・クニッゲ著, 笠原賢介・中直一訳(1993)『人間交際術』講談社, pp.87-88
※第一章は中直一氏が翻訳担当されています。

『史記』蘇秦伝に出てくる「寧為鶏口、無為牛後。(むしろ鶏口と為るとも、牛後と為ることなかれ。)」をクニッゲの文章に追記したのは、鴎外ならではと思いますが、鶏口であろうとも、牛後であろうとも「薄暗い街角を照らす、路傍の街灯」でありたいものです。
そうした気持ちが、きっと元気な生活につながっていくような気がいたします。

何百年経っても、決して古臭くなく、色褪せずに「良いなあ」と
思える言葉、それはきっと真理をついているものだからですね。
長原恵子