「日の光を藉りて照る大いなる月たらんよりは、自ら光を放つ小き燈火たれ」うーん、実に奥行き深い言葉だなあと思っていたところ、これは鴎外のオリジナルではなくて、ドイツ留学時代に読んだアドルフ・F.V.クニッゲの原著から鴎外が生み出した翻案(※)だと知りました。
※参考文献:
森鴎外著, 齋藤孝訳/責任編集(2010)『森鴎外『知恵袋』一日「ひと粒」の黄金の知恵』イースト・プレス, p.239
翻案とは、既に作られた詩文・小説・戯曲・物語などをベースに趣向を変えて作ったものですが、その原著はいったいどんなことが書いてあったのだろうと興味が湧いて、探してみました。もちろん私はドイツ語が読めないので、翻訳本ですが。そして見つけたのがこの一冊。
A・F・V・クニッゲ著, 笠原賢介・中直一訳(1993)『人間交際術』講談社
ここに書かれていた巻末のあとがきによると、アドルフ・ F.V.クニッゲ(1752-1796)の『Uber den Umgang mit Menschen(人間交際術)』は1788年に初版、第二版が出され、1790には改訂増補された第三版が出版されたのだそうです。笠原賢介氏・中直一 氏が訳されたのはこの第三版とのこと。
220年以上前の本ですが、現代にも十分通じるところが多くあります。
そしてなんと、第11章、612ページにわたる大作です。
この膨大な翻訳の中、いったいどこにあるのかなあと、宝探しの気分でしたが「日の光を藉りて照る大いなる月たらんよりは…」の原典は、ここにありました。 |