草木を愛すれば草木が可愛くなり、可愛ければそれを大事がる。
大事がればこれを苦しめないばかりではなく、これを切傷したり
枯らしたりするはずがない。
そこで思い遣りの心が自発的に萌(きざ)して来る。
一点でもそんな心が湧出すればそれはとても貴いもので、
これを培えば段々発達して遂に慈愛に富んだ人となるであろう。
このように草木でさえ思い遺るようにすれば、
人間同士は
必然的になおさら深く思い遣り厚く同情するのであろう。
すなわち固苦しくいえば、博愛心、慈悲心、相愛心、相助心が
現われる理由ダ。人聞に思い遣りの心があれば天下は泰平で、
喧嘩も無ければ戦争も起るまい。
故に私は是非とも草木に愛を持つ事をわが国民に奨めたい。
引用文献:
牧野富太郎(2004)『牧野富太郎自叙伝』講談社, p.161
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