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麻痺で不自由な期間が長いと、もう何をやっても駄目だと、諦めが先に立つことがあります。でも、アメリカの精神科医ノーマン・ドイジ先生の本の中に、こんなどきどきする、嬉しいお話がありました。

ジェレマイア・アンドリューズ(仮名)氏は小学校1年生7歳の時に、突然麻痺が起こってしまったのだそうです。その背景にあった病気の詳細はわかりませんが、野球の練習に参加している時、突然右腕、右足の感覚を失い、力が入らず、震え、倒れてしまったのです。ジュレマイアさんはその後リハビリに通い、左手で字を書けるようになり、杖を使って歩くようにました。

成長したジュレマイアさんは弁護士になり、仕事に励んでいました。しかし動きの方はというと、転ぶことが多く、40代の頃は1年に150回も転んでいたそうです。転倒によって手や足を骨折し、49歳の時は腰の骨まで折ってしまうことになりました。それを契機に、リハビリ通いがまた始まったのです。それは功を奏し、転倒回数は1年に36回にまで減ったそうです。
そして更に、ジュレマイアさんはタウブ・クリニックでのリハビリを受けるようになりました。エドワード・タウブ(Edward Taub)先生のそのクリニックではCI療法(Constraint-Induced Movement Therapy)が行われます。これは比較的自由に動く方の手足の動きや機能をわざと制限することによって、不自由な身体の部分を何とか使う方向に持っていき、動く力を取り戻すことを狙った運動療法です。そういえば私が小児外科病棟に看護師として勤めていた頃、診療科に関わらず「手術を受けるこども」が入院していたので、眼科のお子さんもいらっしゃったのですが「健眼遮蔽(けんがんしゃへい)」といって視力の良い方の目をアイパッチでわざと閉じて、悪い方の目を使って視力を鍛えていた子どもたちが何人もいたこと、思い出しました。お子さんがアイパッチをするとご両親は随分不憫に思うようですが、大人が思うほど子どもは気にすることもなく、アイパッチをしながら楽しそうに遊ぶ姿がよくありました。

さてジュレマイアさんはそのCI療法によって2週間右手の訓練、3週間右足を訓練しました。手の方はというと、右手で鉛筆をもって字が書けるようになったのだそうです。そして足の方は転倒回数に現れてきました。訓練が終り3年たったのですが、その間で転んだのはたったの7回!
1年間に150回転んでいた方が、3年間で7回。
それは身体機能が強化されたという意味だけを持っているのではない、と思います。生活の行動範囲を広げることにもつながっただろうなあと思います。ドイジ先生はジュレマイアさんのCI療法の結果を、次のようにおっしゃっています。

脳は可塑的で、再編成できる。
だからこそ、脳卒中で感覚野や運動野が損傷を受けたといっても、患者が積極的に訓練してどの程度進歩するかの判断は慎重に下さなければならない。ジェレマイアがいい例で、後遺症がどのくらいの期間続いているかは関係ないのだ。

脳は、「使わなければ失う」。
しかし、この原則を一面的にとらえ、ジエレマイアのバランスと歩行、手の動きをつかさどる脳の部分が完全になくなったと考えてはいけなかった。治療はもう無意味だと結論を出すのは、まちがいだ。

現に、能力は弱くなっていたものの、脳は適切なインプットを受けると再編成して、失っていた機能を果たす新しい方法を見つけたではないか。いまや脳スキャンでも、それが確認できる。


引用文献:
ノーマン・ドイジ著, 竹迫仁子訳 (2008)『脳は奇跡を起こす』講談社インターナショナル,pp.179-180

脳の可塑性はどういうことであるか、もう少し詳しくみてみましょう。

タウブ、ヨアヒム・リーパート、そしてドイツのイェーナ大学の共同研究者たちによると、脳卒中のあと、影響を受けた腕の脳マップはおよそ半分にまで縮小する。つまり、患者は、もとの半数のニューロンでやっていかなければならない。患者が麻痺のある腕を動かすのはたいへんだと話すのは、このせいだとタウブは考えている。動きがたいへんなのは、筋肉の萎縮のせいだけではなく、脳の萎縮のせいでもあったのだ。CI療法によって、脳の運動野が通常の大きさにもどると、腕を使うことがそれほどたいへんではなくなる。

CI療法によって、縮小した脳マップが回復することは、ふたつの研究によって確認されている。

ひとつの研究では、平均して6年間腕や手に麻庫が残っている6人の卒中忠者について、脳マップを計測した。6年経過していることから、即時の回復は望めない。しかしCI療法を受けると、手の動きに関係する脳マップの大きさは2倍に増加した。

もうひとつの研究は、CI療法が脳の右半球と左半球、どちらにも変化をあたえていることを証明した。つまり、広範囲にわたって可塑的な変化が起きているのである。CI療法が、脳卒中患者の脳の構造を変化させていることが、この結果からはっきりした。ジェレマイアがどのように回復したのか、ここにヒントがあるように思う。


引用文献:前掲書, p.180

手足と脳のつながりについて、そして脳の果たす役割についてタウブ先生やドイジ先生のような見方をしてみると、今あなたのお子さんが取り組んでいるリハビリは、決して手足のためだけにやっているのではないことがわかります。手足を動かす根本自体に働きかけているのです。
手足の筋肉がついた、とか太くなったという変化は私たちの目に見えてわかりやすいもの。でも頭の中を簡単にのぞくわけにはいきませんね。
だけど、脳マップを変えていることを想像しながら、リハビリに取り組むことによって、リハビリに張り合いが出てくるのではないでしょうか!

 
もう時間が経ってしまったから…そういった諦めはあらゆる可能性を閉じてしまいます。いつでもやる気になった時がきっと吉日! 
長原恵子