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家族の気持ちが行き詰まった時
あなたが気付いていないこと
(日本画の吹抜屋台から考える)

今日は絵画のことを取り上げたいと思います。日本画には吹抜屋台(ふきぬけやたい)と呼ばれる技法があります。これは斜め上方から斜め下方を眺めるような俯瞰図をとる構図のことです。
家屋を描く時、家の柱や長押(なげし)は描かれるのですが、屋根は描かれないために、部屋の中の様子がわかるようになっています。

絵巻である「北野天神縁起」の承久本 巻三には、菅原道真が筑紫へ配流されることが決まった場面が記されています。二十九紙から三十紙には道真が、部屋の中から庭の紅梅を眺めている姿が描かれていますが、京で過ごした人生に後ろ髪引かれる思いであった道真は、自宅の庭の木々にまでもその思いを和歌に託していきました。

東風(こち)吹かば匂ひ起こせよ梅の花
主なしとて春を忘るな
桜花主を忘れぬものならば
吹き来む風に言伝(ことづ)てはせよ


引用文献:
小松茂美編(1991)『続日本の絵巻15 北野天神縁起』中央公論社, p.106

このような内容の和歌です。

長原私訳:
春になって、東から風が吹くようになれば、
この庭に咲く梅の花よ、
どうか、その香りを立ち起こしてください。
 (流罪先の筑紫にいる私の元へ、その香りが届くと嬉しい)
私がいなくなっても、花を咲かせる春を忘れてはいけませんよ。
桜の花よ、私を忘れないでいてくれるなら、
春風に乗せて、どうか私に伝言を届けてください。

その時、道真とは離れた北の対にいた妻は、泣き伏していました。その様子は三十一紙から三十二紙に描かれています。
まるで庭に設置された3、4メートルくらいの高さの台に乗って、広い邸宅敷地にいた道真と妻の様子を、一枚の大きな写真に収めたような絵になっています。この絵は北の対を吹抜屋台の構図で描いているからこそ、画面中央で庭に向かって開け放たれた部屋の際にいた道真と、北の対の几帳の奥にいた妻の様子を同時に表現できているのだと思います。


筑紫に向かう離京の折、道真は妻に次の歌を残したそうです。

君が住む宿の垣根を行く行くと
隠るゝまでにかえり見しかな

引用文献:
小松茂美編(1991)『続日本の絵巻15 北野天神縁起』中央公論社, p.107

このような内容の和歌です。

長原私訳:
あなたと共に住んだ、思い出深い自宅を後にしながら、あなたがそこにいるのだなあと立ち去り難い思いを胸に、その垣根が見えなくなるまで、ずっと私は振り返って見ています。

道真の妻は、その歌を受け取り、血の涙を流し、そばにいた人の着物の袂まで涙で濡らすほど、嘆いたそうです。

※絵巻は大型カラー本として出版されていますので、ご紹介した絵をご覧になりたい方は小松茂美編(1991)『続日本の絵巻15 北野天神縁起』中央公論社,
pp.16-17をご参照ください。

さてここで本題です。お子さんの回復が思うように進まず、一体この先どうすれば良いのだろうかと途方にくれているご家族にとっては、出口が見えず、孤独に思うこともあるでしょう。
どうして自分の子どもだけ、自分の家庭だけこんなに苦しい目にあわなければならないのだろうかと、気分が落ち込むこともあるでしょう。
時にはご両親の間で、気持ちが通い合わず、すれ違いばかりになっているかもしれません。誰も自分の気持ちをわかってくれない…と孤独に苛まれるかもしれません。
ただ吹抜屋台の構図を見ているうちに、はっと気付くものがありました。

孤独に思っていたけれども、実は「どうやったら、あなたの力になれるだろうか」と思案し、気遣っている人が、きっと近くにいるはずなのです。
あまりに続く困難な状況は、気付く余裕をあなたから奪ってしまったかもしれないけれど、あなたの知らないところで、あなたを心配して泣いている人がいるかもしれない…。
そのような考えを「北野天神縁起」(承久本)から思い起こしました。

 
行き詰まった時、「吹抜屋台」の構図のように、ちょっと離れて状況を眺めてみてください。あなたの身体や心を案じている家族や周囲の人々の存在に、気付けるはずです…。                
長原恵子