病児・家族支援研究室 Lana-Peace(ラナ・ピース)
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病気と一緒に生きていくこと
いつだって、毎日がスタート日
ー伐採されたユリノキから考えるー

2019年4月下旬の東京は、薄手のコートがないとやり過ごせないくらい冷たい風が強く吹く日もあれば、まるで一足先に初夏を先取りしたような陽気の日もあり、随分寒暖の差がありました。しかし自然はそんなことおかまいなしに、着実に歩みを進めていたのでした。こちら練馬区の光が丘のとある場所、冬の間、街路樹のユリノキはすっかり葉を落として寂しくもあり、潔くもありましたが、春を迎えて緑の若葉がどんどんと芽吹き、緑の木陰を作るようになっていました。

この街路樹の中で1本、冬の間に地上から1m位のところで伐採されていたユリノキがありました。それは倒木の危険があったから。先日その木のそばを通ったところ、なんと幹断端のすれすれのところに、新たな命が姿を現していたではありませんか!小さいけれど、まるで元気に「わーい!」って両手を広げているように見えませんか?

若い枝の根元の辺りを見てみると、幹にしっかりと土台を作って「よーし、頑張って大きくなるぞ!」って言っているみたいです。裂のあるユリノキの葉っぱの形とは違い、まだ楕円の小さな葉っぱが根元にはいくつか顔を出しています。うーん、これはユリノキの赤ちゃん葉っぱなのでしょうか?

細い枝のわりには大きな若いユリノキの葉、こちらは裂のある見慣れた葉の形に近付いているけれど、風が吹くとしなってしまいます。それでも風がおさまると、また元の立ち姿へと形を整えて戻ります。

この木を伐採しようと判断された時、きっと幹の途中、内側の見えないところで何か病気などの変化が起こっていたのでしょう。そうは言っても伐採後、断端がむき出しになった幹を初めて目にした時は、これまで何年もかけて大きくなっただろうに……と、すごく心が痛んだものです。
でも、こうして幹から出た若葉を見て、人間が考えるほど自然は弱い存在ではないと改めて感動しました!

ユリノキはびっくりしただろうなあ。突然チェーンソーで幹が切られて、その上の枝や葉っぱは行き場を失ってしまったのだから。それでも「もう私、終わりだわ」なんて思わないで、日々、自然の中で生の時間を過ごしていたのだと思います。太陽の光と雨を浴びて。無心に粛々と。いや、「私、頑張るわ」って思っていたかもしれないけれど。
その結果がこうした若芽、若葉につながっているのです。

そしてこの剪定されたユリノキが重い病気のこどもたちの姿にも重なりました。病気のため、治療のため、多くのものを失ったこどもがいます。それは身体の一部であったり、これまでの生活であったり、今までできていたはずのことであったり、未来に抱いていた夢であったり……。
だけどこのユリノキが教えてくれます。自分が、あるいは周りが思い描いていたこととは全く違う可能性をみんな秘めている。そして実際、失ったものがあったとしても「限界」を考えてしまうのは、そもそも人間だけ。
起こるかどうかわからない未来の出来事にあれこれ心悩まして、諦めて、悲観的になってしまう。幹の断端からこんなに元気な勢いのある若芽が出て来るなんて、昨年の冬、私にはとても想像できなかった。それでも実際にこうしていくつもの若葉が出て、風にも負けずに若い枝を伸ばしている。その姿を見ると、どんな時でも、いつでも、毎日がスタート日なんだなあって思いました。

 
写真:2019/4 東京都練馬区光が丘 当方撮影
 
病気だからって何もかも諦めないで。あなたの内にどんな可能性が秘められているか、それはあなたも気付いていないだろうけど、いつか開花する時がきっと来るから。新しい思いもしない形で。
2019/5/2  長原恵子