信念と治癒 1 |
希望の花が開くとは?のページで「希望を持つことは、自分の状況をある程度コントロールする力が自分にはあるという信念を持つことである」というジェローム・グループマン先生の考えをご紹介しました。
「信念」は自分の心や生き方に対する姿勢に大きな影響を持つことがわかりますが、そのほかにも信念は私たち人間の病気にとても強い力を及ぼすことを説いた方がいらっしゃいます。ノーマン・カズンズ先生です。
カズンズ先生はご自身の病気(膠原病)の体験から、「笑い」を積極的に自分の生活に取り入れることは、身体の病変を良い方向へと変えていくことを確信し、それを社会に伝えられてきた方です。
病院に行くと「循環器科」「消化器科」といった分類をよく目にします。これは私たちの身体を機能別の臓器によって分類したものですが、カズンズ先生はそうした分野の分類のほかに、私たち人間に大切なものとして二つの系の考え方を掲げました。その一つが「治癒系」であり、もう一つが「信念系」です。
カズンズ先生は人体が病気と戦うために、その総力を動員する方法(治癒系)の促進役となり、身体の働きに影響をおよぼす心の働きのことを信念系と考えられました。
そして何か身体のために良いことを実行するのは、自分がそうしようと思って選択したからこそ始まるのであり、その選択は病気が良くなるための力を総動員するためのスイッチの大元のようなものと、カズンズ先生は考えられました。
信念の起こす変化について、カズンズ先生の意見を引用してみます。 |
信念系はすべての力のコンテスト(病気もその一つである)において、希望、強い期待、生への意欲をプラスの要因に変える。
(略)人体の持つ最大の力は、生得の自己治癒力であるが、しかしその力は信念系から独立のものではない。
期待を生理学的変化に転換できるのは信念系なのだから。
人間の脳の百五十億個の神経細胞が、考えや希望や心構えを化学物質に変える力ほど驚異的なものはない。
そこですべては信念から始まると言っていい。
我々の信ずるものが、何よりも強力な選択なのである。
引用文献:
ノーマン・カズンズ著, 松田銑訳(1985)『人間の選択 自伝的覚え書き』角川書店, pp.279-280 |
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これをまとめてみると、信念が根底にあって、そこから期待や希望が生まれ、そこから身体に変化を及ぼす化学物質が生まれ、生理学的変化が起こるというプロセスが表されていることになりますが、信念が化学物質を生み出し、生理学的変化を起こせるものだろうか?と疑問に思われる方もいらっしゃると思います。
そこで、人間の発する言葉とホルモンに関して矢山利彦先生が説明された文章をご紹介したいと思います。 |
知覚情報は情報を調整する大脳辺縁系への入り口にあたる肩桃体へ伝えられ、肩桃体は記憶情報を使いながら各刺激に対してどのように感情的に反応すべきか決めます。(略)快と判断するときはドーパミン、エンドルフィン、セロ卜ニンといった神経ホルモンが分泌されています。
アドレナリン、ノルアドレナリンという不快の神経ホルモン過剰の状態は治癒のメカニズムが順調に働かないし、ドーパミン、エンドルフィン、セロトニンという快の神経ホルモンが十分に分泌されているときは治癒のメカニズムが良く働くことは十分に納得できることでしょう。
「魔法の言葉」は知覚情報を不快反応の流れから快反応の流れへと変える働きをするのだと考えられるのです。
引用文献:
五日市剛・矢山利彦(2007)『運命が変わる 未来を変える』ビジネス社, pp.86-87 |
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矢山先生がここで表現されている「魔法の言葉」というのは何か悪いことが起こった時でも口にする感謝の言葉(共著の五日市先生の提唱されている概念)です。言葉を自分の頭が認識して、治癒が促進する働きを持つホルモンの分泌が促されるのであれば、言葉によって表すことのできる信念から期待や希望が生まれ、それが同様に治癒に加担するホルモン分泌を促すと考えることもできるでしょう。
「病は気から」という言葉が昔からあります。「気」を<人間の存在を支えるエネルギー>と解釈することができますし、<気持ち>と解釈することもできますが、後者の場合で考えてみれば「病は気(持ち)から、治癒のプロセスを生み出すのも気(持ち)から」と言えるように思えます。 |
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あなたとお子さんにとって、晴れやかな気持ちになるような信念がもて、お子さんの病気の治癒につながりますように…。 |
2013/8/15 長原恵子 |