病児・家族支援研究室 Lana-Peace(ラナ・ピース)
病気のお子さんと
ご家族のために…
 
ご案内
Lana-Peaceとは?
プロフィール連絡先
ヒーリング・カウンセリングワーク
エッセイ集
サイト更新情報
リンク
日々徒然(ブログへ)
 
エッセイ集

病気と一緒に
生きていくこと

家族の気持ちが
行き詰まった時

アート・歴史から考えるこどもの生

病気の子どもたちが楽しい気分になれるといいな!「けいこかふぇ」のページへ
 
人間の生きる力を
引き出す暮らし
自分で作ろう!
元気な生活
充電できる 癒しの
場所
家族の気持ちが行き詰まった時
揺れながら、見つけ出した道

何か月もの妊娠期間を経て、待ちに待って、ようやく会えた待望の赤ちゃん…。幸せいっぱいのその時、赤ちゃんに先天性の病気があることを告げられた時、ご家族は大変心を痛められます。これからどうしていけばいいんだろうかと、先が見えず、途方に暮れることでしょう。
でもそうした気持ちは、だんだんと変わっていきます。
そのような心の揺れが奥山佳恵さんの『生きてるだけで100点満点!』に、綴られていましたので、ご紹介したいと思います。

奥山佳恵さんの次男の美良生(みらい)くんは、生まれて10日ほど経った頃、心室中隔欠損であると医師から告げられました。これは心臓を1階に2室、2階に2室あるおうちだと考えた時、1階の2つのお部屋を隔てている壁に穴が開いているために、左側のお部屋から右側のお部屋の方に一部の血液が流れ込み、肺の方へと流れこんでいく病気です。本来、身体のあちこちで必要とされている血液量が、十分あちこちに届かないため、母乳やミルクを飲む時、赤ちゃんがすごく大変だったり、なかなか体重が増えないという状況が起こってきます。
心室中隔欠損の説明の際、あわせてダウン症である可能性も説明されました。そして遺伝子検査を受け、生後1か月半頃に、ダウン症であると診断されました。ご主人と共に聞いた病院の帰り道、佳恵さんは茫然としていましたが、ご主人のあたたかい言葉で救われました。
そして家に戻ってから、上のお子さんにも病気のことを話しました。上のお子さんは激しく泣きましたが、翌日、弟を無心にあやしていたのです。その様子を見て、佳恵さんはハッとしました。

車に乗り込むと、今まで取り乱してはいけないと堪えていた涙があふれ出す。(略)

ここから歩む道の険しさを思うと、胸が苦しい。
「功ちゃん……。
ダウン症のことは何も分からないけれど、この子が可愛いということだけは分かる」

私がそう話しかけると功ちゃんは、
「それだけで十分じゃないかなと思うよ」
と言った。

その言葉に、また泣いた。1)


空良の立ち直りは誰よりも早かった。
1日寝たら全然平気な顔をして、今までと全く同じ美良生くんのお兄ちゃんの顔をした。子どもってすごい。
邪念や邪心がない分、ありのまま、そのままを受け入れている。
空良にとても大事なことを教わった気がした。2)


引用文献1):
奥山佳恵(2015)『生きてるだけで100点満点!』ワニブックス,
pp.101-102
引用文献2): 前掲書, pp.106-107

その数日後のことです。

どんな道のりになるのか何も分からないから、ものすごく不安が大きくなる。真っ暗な世界すぎて未来が描けない。
少しでも何か見えてくれば、もう少し前向きになれるのだろうけれど。

何だか急に何もかもがイヤになって家出の心境で飛び出した。


引用文献:前掲書, p.107

荷物をまとめて、家を出る…決してそんな家出ではありません。上のお子さんに赤ちゃんを預けて、郵便局とスーパーに出かけた時、そのような心境だったのだそうです。
そして用事を済ませて家に戻った時、美良生くんは大泣き。お兄ちゃんは困り果てていました。

ああ、私は何をやっているんだろう。さらに落ち込んだ。
鏡に映る私の顔は全然しあわせそうじゃない。私は今後、何を目標にして生きていけばいいのか。


引用文献:前掲書, p.108

出産後、病院通いが続き、哺乳力の弱い美良生くんのために、一生懸命母乳を飲ませ、病気の診断を聞き、本当に身体と心が休まる時間がなかったのですから、佳恵さんは本当に大変だっただろうと思います。母としても、しっかりとケアを受ける必要があった時期です。
そこで、佳恵さんは鏡の前で微笑んでみて、自分で顔や身体の手入れを丁寧に行ってみたそうです。

重たくなっていた心が、ほんの少しだけど軽くなったような気がした。体を丁寧に扱ってあげると、元気って復活するような気がする。心と体は繋がってるんだと改めて実感。(略)
心がしんどいときは体を労わってあげよう。
そして自分のスピードで進もう。


引用文献:前掲書, pp.108-109

振り子のように揺れる気持ちであったけれども、佳恵さんは新しい家族の増えた暮らしの中で、気持ちを立て直していきました。ご主人や上のお子さんの姿に気付きを得ながら、次のような気持ちへ変わっていったのです。

だから、遠くを眺めて「できない」とため息をつくより、「目の前のできることを一つずつ積み重ねる」、そう自分自身に言い聞かせている。未来は今の延長にある。

1人で食事ができる、トイレに自分で行ける着替えができる……
一つひとつの訓練には長い長い時間がかかるけれど、その分、親も楽しませてもらえるわけで、それを積み重ねることで親の不安は解消されるし、本人たちの自立に繋がる。

これからもそうやって、みんなで支え合って育てていこうと思っている。


引用文献:前掲書, p.191

それでも、時には、心の中でいろんな思いが頭をもたげてくることもあるでしょう。そんな時佳恵さんはどうするのか?
きっとどのご家庭にも、通じるいい言葉です。

そもそも1人ひとりはみんな違うものだし、私だって世界でたった1人しかいない「特別」な存在。
みんな違うのは、みんなおなじなのだから、そこに不幸はないのだ。 1)

「ダウン症の美良生くん」なのではなく、
「美良生くんは、美良生くん」。
心のスキマに不安が入って来たときは
そう心の中で唱えるようにしています。
ダウン症だから特別なのではなく、
みんなが自分の子を「特別」だと思うのと同じように、
私の2人の子どもは「特別」。2)


引用文献1):前掲書, pp.52-53
引用文献2):前掲書, p.15

 
大きなショックの中から、自分で見つけ出した考え方だからこそ、それは大いなる力となって、自分を支えていけるんだと思います。
2015/6/11  長原恵子
 
関連のあるページ:
俯瞰することにより光を当てる(奥山佳恵『生きてるだけで100点満点!』より)