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ニューヨーク州郊外に暮らすマイク・ショアさんのインタビューが『君が僕の息子について教えてくれたこと』(NHKエンタープライズ, 2015)に収載されていました。マイクさんの息子ブライアンさんは、重度の自閉症です。お父様は息子さんのために日常生活のすべてを捧げたとおっしゃるほど、一生懸命育ててこられました。しかし多くの問題を抱えるようになり、息子さんは20歳の時から障害者専用のグループホームに住むようになりました。それから13年間経った頃、マイクさんは東田直樹さんの『自閉症の僕が跳びはねる理由』の英語版『The reason I jump』を読まれたのです。マイクさんの大きく気持ちは大きく揺さぶられました。なぜなら、マイクさんは息子さん自身を本当の意味で受け入れていなかった、と気付かれたからです。

息子の声が聞こえる気がしました。
33年間一度も聞けなかった息子の声でした。


引用DVD:
NHKエンタープライズ(2015)『君が僕の息子について教えてくれたこと』

マイクさんはブライアンさんを本当に理解していなかったと心の中で詫びながら、一ページずつ読み進めていったのだそうです。

ブライアンさんは週に一度、グループホームから自宅に帰ってこられます。以前は息子さんに対する義務感から、気持ちを奮い立たせ、マイクさんはブライアンさんを迎え入れていたため、その道中の足取りは重かったそうです。しかし、直樹さんの本を読んでから、息子さんの帰りを待ち遠しく思えるようになったのだそうです。

それは直樹さんの本に、自分の存在が周りの人々を不幸にしていることは耐えられないから、どうか自分のことで悩まないでほしいという思いが綴られていたからです。何を考えているのか計り知ることさえできなかった息子の気持ち。でも、ブライアンさんも直樹さんと同様に感じていたのであれば、どれほど苦しい思いだったでしょう。
義務感にかられて動いていた親の心の底を、きっとブライアンさんも察していたでしょうから…。
それからマイクさんは、息子さんを「世話をする」という意識を持つのではなく、息子さんとの時間を楽しめば良いと思うように変わっていかれたのです。 やがてブライアンさんの表情に変化が訪れるようになりました。

高校生の頃、直樹さんが書かれた次の言葉があります。

僕は、自閉症であることを誇りに思えるような人生を歩みたいのです。
自閉症の子が生まれたからといって、悲しんだり同情したりされたくないのです。人の人生の幸、不幸は、その人が決めるべきものです。
みんなと同じことができないことが、不幸なのではありません。
人間として、自分らしい生き方ができないことが、悲しいのです。

ひとりひとりが大切な人であるように、僕が自閉症として生まれてきたことには、きっと大きな意味があるに違いありません。
それが、何なのか見つけることが、これからの僕の人生の目標だと思っています。


引用文献:
東田直樹(2010)『続 会話のできない高校生がたどる心の軌跡』エスコアール出版部, pp.146-147

現代の医学では、根治できる手術や薬、何か治療法がなかった場合、心の中で「病気を治す」ことに主眼を置いたままでは、無力さばかりを感じてしまい、幸せな気持ちを感じる瞬間は得難いことでしょう。
でもちょっとそれを横に置いて、「自分が自分らしく生きていけること」に注目することにより、人は努力する方向が変わっていくように思うのです。なぜなら、そこには無限の可能性があるはずだから。

きっとマイクさんご夫妻にとっては、「楽しい時間を共有して、そこから幸せを感じていく」ことが、自分らしく生きることなのだと気付かれたのだろうと思います。例えば一緒に食卓を囲むことに、楽しさを見出したり。幸せのあり方がシンプルになったからこそ、それは息子さんも共有できる幸せだったのしょう。両親の結婚式のアルバムの写真に何度も、キスをするようになりました。マイクさんご夫妻はそれを、息子から親への感謝の気持ちを伝えているのだと考えています。

今、そこにいる両親ではなく、過去の両親に対するキス。
共に過ごす「今」の時間が幸せなものへと変わったからこそ、ブライアンさんの思いは「過去」へと向けられるようにもなったのでしょう。

 
親御さんの考え方を変え、関わり方が変わることにより、お子さんの意識の方向はきっと、もっと奥深い広がりを見せるのですね。
長原恵子
 
関連のあるページ(東田直樹さん)
「親の悲しみを上回るもの」
「自信が導く新しい道」
「拡大するこどもの意識」 ※本ページ
「深い底にあるもの」
「重症であるほど潜む大きな力」
「幸せの必要十分条件」
「深まる理解と居心地の良さ」
「病気や障害を伝えることの意味〜親にとって子にとって〜」