そのとき、自分がプールの底に沈んでいるのを見ながら、私は空中へ上がっていったんです。救命員が「全員上がってください」と大声で呼んでいるのが聞こえました。
そのつぎに気づいたときは、黒い道があって、私はそこを歩いていました。どういうわけだか小さなシカがいて、私と一緒に歩いているんです。そのうち、とても美しい庭に出ました。
すごい大本が一本あって、川が流れていて、木のそばで子どもが遊んでいました。その子たちの衣装はトーガを思わせるようなものでした。古代ローマの人が着たようなゆったりした服です。
その子たちが私を見て、こっちにおいでと呼んでくれました。私は行こうとしたんです。でも途中まできたとき、壁か、あるいは何かの力にぶつかったように感じて……
どんなものかうまく説明できませんけど、つぎの瞬間には、私は真空に吸いとられたみたいに、引きもどされてしまったんです。気がついたら自分の体にもどっていました。
救命員の大丈夫か、しっかりしろっていう声が聞えてくる直前、天使が私に何か言っていたんです。そのときはまだ8歳でしたから、意味がわかりませんでした。
でも何年かたつと、わかってきました。天使はこう言ったんです。もし私がいい人生をおくるなら、死を恐れる必要はどこにもないって。そのときから今日まで、ずっとそうしようとつとめてきました。なかなか完壁にはいかないことでしょうけどね。
その話は長いこと誰にもしませんでした。みんなに、とくに父や母にどう思われるかが心配でしたから。私のほかにもそんな体験をした人がいるとわかるまで、黙りとおしてきだんです。でもこの体験のせいで、死が怖くなくなったんだと思います。死んでも怖いことは一つもないことがよくわかりましたから。両親はもう二人とも亡くなりましたけれど、きっと二人にも会えるでしょうしね。それはとても楽しみにしているんです。
引用文献:
ジェフリー・アイバーソン著, 片山陽子訳(1993)『死後の生』日本放送出版協会, pp.116-117 |