天使と過ごす自由な魂 |
2014/4/16、韓国の珍島付近で旅客船セウォル号が沈没して、一週間になります。亡くなった方のご家族の気持ち、そしてまだ安否がわからない方のご家族の気持ちを考えると、非常に胸が痛みます。476名いらっしゃった乗員乗客のうち、339名は修学旅行を楽しむ高校生と学校の先生だったとのこと。青春時代の楽しい思い出がたくさんできるように…そう見送ったはずなのに、こんなに悲しいことになってしまうとは、本当に心痛、極まりないものと思います。
お子さんが亡くなって見つかった方は、いつ亡くなられたのか、その瞬間、どんなふうだったのか、知るすべがないわけですから、ご両親は頭の中にいろいろと湧きあがる想像によって、まるで心をかきむしられるような思いでいらっしゃるかもしれません。
人それぞれ、信じるところの違いはあると思いますが、先日読んだアンデルセンの童話の中で、非常に心に残る言葉がありました。
『天使』という童話です。
苦しく、悲しい思いでいっぱいのご両親、ご家族にお伝えしたいと思って今日は取り上げます。
この童話は、亡くなった子どもを天使が天国へと連れて行く途中、会話している場面から、お話が始まります。天使はこう言いました。 |
「よい子が死ぬとね、そのたびに神さまの天使がこの世におりてきて、その死んだ子を腕にだきあげ、大きな白いつばさをひろげて、その子のすきだったほうぼうの場所へ飛んでいくのですよ。
そして、手にいっぱい花をつんで、神さまのところへもっていくのです。
そうすると、その花は、この世で咲いていたときよりも、ずっときれいな花を咲かすのです。
神さまは、どの花もみんなごじぶんの胸におあてになり、中でいちばんお気にめした花にキスをなさいます。
そうすると、その花は声が出るようになって、大きな祝福の歌を、みんなといっしょにうたうようになるのです。」
引用文献:
ハンス・クリスチャン・アンデルセン著, 大畑末吉訳(2000)
『アンデルセン童話集2 新版』岩波書店, p.85
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その後、天使と亡くなった子どもは、二人で町の空を飛びながらお散歩します。
天国に持っていくお花をどれにしようかなあと、探して摘みながら…。
二人は、せっかくつぼみが開きかけていたのに、幹を折られてぐったりしてしまったバラの枝や、華やかな花や、あまり人にもてはやされないマリーゴールドや、野生のパンジーで花束を作り、最後に、植木鉢ごと捨てられて、ひからびてしまった野の花を、花束の中に入れました。
実はその天使は、一年前に病気で亡くなった子どもでした。
今は神様の愛によって、立派に天使になったのですね。
花束と共に、いよいよ天使と子どもは、天国に到着しました。 |
子どもは目をぱっちりみひらいて、天使の美しくあかるい顔を見ました。ちょうどそのとき、ふたりはよろこびと幸福とに、みちあふれている神さまの天国にはいりました。
神さまは、死んだ子を胸にだきました。
すると、天使と同じようなつばさがはえて、ふたりは手をつないで飛びまわりました。
神さまはまた、すべての花を、胸にあてました。中でも、あのみすぼらしい、ひからびた野の花には、キスをなさいました。
すると、その花は声が出るようになって、ほかのすべての天使たちといっしょに、歌をうたいはじめました。
天使たちは、神さまのまわりを、ただよいました。あるものはごく近く、あるものは遠く、大きな輪をつくりながら、しだいに遠くはなれて、無限のかなたまで、ひろがっていました。
みな同じように幸福にみちあふれていました。こうして、大きい天使も小さい天使も、みんな声をそろえてうたいました。祝福を受けたあのよい子も、引っ越し日のがらくたものやくずの中にまじって、せまい暗い通りに投げすてられた、ひからびた、みすぼらしい野の花も、みんないっしょに。
引用文献:前掲書, pp.90-91 |
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アンデルセンの童話ですから、きっと韓訳されて、韓国でも出版されていることでしょう。
英語のタイトルは「The Angel」です。
デンマーク語のタイトルは「Engelen」です。
お子さんのことを思って、胸が張り裂けそうなご両親、いてもたってもいられないような気持ちのご家族に、知っていただきたい本です。
亡くなったお子さんの魂は天使によって天高く引き上げられ、そして美しい世界で心安らかに、楽しく過ごしている…そんな風に思ってほしいです。たとえ船の中に閉じ込められていようとも、お子さんの魂は今、自由に、解放されていると信じて…。
そしてご両親、ご家族の愛情はお子さんの魂に十分届いていることを、知ってほしいと思います。それをご両親、ご家族に直接言葉で伝えられないことを、誰よりももどかしく思っているのは、お子さんですから…。 |
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アンデルセンの『天使』は1843年11月、出版されました。171年越しのアンデルセンからのメッセージ、犠牲になった子どもたちのご両親、ご家族に届いてほしいと思います。 |
2014/4/23 長原恵子 |