「ささやかな生きがい」とても、良い言葉です。
モーゼス女史の作品はその作品の多くから、あたたかな空気感が伝わってきます。「Invisible(見えないもの)」と題された作品(前掲書 p.96)があるのですが、黒と白と淡いベージュでシンプルにまとめられたその絵には、5人の男性が、雪の中の街を何か探している様子が描かれています。
探しているのは、人なのか、物なのか…、それはわかりません。でも、確かに5人は手分けをして、一生懸命探しています。
Invisibleと名付けられたその絵は、1961年、モーゼス女史の最期の年に発表された作品。
「見えないけれども、人生には何か一生懸命探すべきものがあるんだよ」「見えないけれども、とても大事なものがこの世にはあるんだよ」
そのようなメッセージのように、思えてきます
最期にInvisibleなものを大切にしたモーゼス女史、いったいそれは、何だったのでしょう。
モーゼスさんは10人の子宝に恵まれたのですが、そのうち5人のお子さんが生まれてまもなく亡くなってしまったのだそうです。そして70歳を過ぎた頃、病気がちだったお嬢さんのアンナさんに先立たれ、遺されたお孫さんの世話を続けたのだそうです。88歳の時には末息子ヒューさんが亡くなり98歳の時にはお嬢さんのウィノーナさんが亡くなりました。
Invisibleなものとは、もしかしたら赤ちゃんの時に亡くなった5人のお子さんと、成人してから亡くなった3人のお子さんの魂では…?
自分の住む街のどこかに、自分の子どもたちの魂が隠れているのではないかなあと探していたような…、そんな気がしてきました。
お子さんを亡くされて「もう生きていてもしょうがない」「生きがいを失ってしまった」と息苦しい気持ちでいっぱいの方もいらっしゃるかもしれません。でもInvisibleなお子さんに守られて、ささやかな「生きがい」を持つことによって、人生を精一杯、全うされたモーゼス女史の人生。
あなたにもお伝えしたいと思って、今日選びました。
※年表は
秦新二編、千足伸行監修(1995)
『グランマ・モーゼスの贈りもの』文芸春秋を参考にいたしました。 |