失なつたもの
夏の渚でなくなつた、
おもちやの舟は、あの舟は、
おもちやの島へかへつたの。
月のひかりのふるなかを、
なんきん玉の渚まで。
いつか、ゆびきりしたけれど、
あれきり逢わぬ豊ちやんは、
そらのおくにへかへつたの。
蓮華のはなのふるなかを、
天童たちにまもられて。
そして、ゆふべの、トランプの、
おひげのこはい王さまは、
トランプのお国へかへつたの。
ちらちら雪のふるなかを、
おくにの兵士にまもられて。
失くなったものはみんなみんな、
もとのお家へかへるのよ。
引用文献:
金子みすゞ(1984)『金子みすゞ全集 2 空のかあさま』
JULA出版局, pp.141-142
※WEBの都合上、旧漢字は当方が常用漢字に直して載せています。 |