|
|
|
アート・歴史から考える死生観とグリーフケア |
瑞花双鳳五花鏡・梅花文鏡筥
(船橋市郷土資料館蔵) |
|
作品名: |
瑞花双鳳五花鏡(ずいかそうほうごかきょう)
梅花文鏡筥(ばいかもんかがみばこ) |
員数: |
一具 |
制作年: |
平安時代 12世紀 |
所蔵先: |
船橋市郷土資料館 |
出展先・年: |
六本木開館10周年記念展
国宝《浮線綾螺鈿蒔絵手箱》修理後初公開 神の宝の玉手箱, サントリー美術館, 2017年 |
|
|
|
|
こちらの鏡と鏡筥(はこ)は、千葉県の印内台(いんないだい)遺跡群から出土したもの。平安時代の土坑墓(地面に穴を掘って埋めたお墓)に、副葬品として埋納されていたのだそうです。特筆すべきは、この鏡、鏡筥に納まった状態で、土中から発掘された、ということ。筥の残欠はもちろん経年劣化はあるものの、梅の花の輪郭をかたどった文様がはっきりと残っていました。シンプルだけど、とても品があります。
その筥のおかげでしょうか、中に納められていたという鏡は、非常に美しさを保っていました。もちろん筥から取り出された後、きれいにしたのでしょうが、そうだとしても900年近く前の鏡とは思えないくらい、とても新鮮な感じがします。鏡の縁のやわらかな曲線は梅の花びらをかたどったもの。とても美しい曲線です。
この鏡と筥からは300年ほど時代が遡りますが「平安時代で梅の花」というと菅原道真の次の和歌を思い起こします。
「東風吹かば 匂いおこせよ 梅の花 主なしとて 春な忘れそ」
当時に対する私の勝手な想像ですが、厳寒の時期を乗り越えて、毎年、白と紅のかれんな花びらをつける梅に対して、人々は格別な思いを寄せたのではないでしょうか。梅は「永遠」「再生」の象徴…そんな思いを梅に重ね合わせて見ていくと、鏡と筥に用いられた梅の文様には、永遠の命とか、再び蘇って花開いてほしい人生とか、そうした切なる思いが託されているかのように思えてきます。
古墳から出土する鏡の意味については、その目的が魔除けであるとか、呪術的なものであったり、いろいろ語られます。しかし、鏡が故人を守る物であるとすれば、この瑞花双鳳五花鏡は朽ちることなく、役割を果たそうと頑張っていたと言えますね。そして、更にその鏡を土中で守リ続けていた筥。一体どんな素材で作られたのでしょう?鏡だけでなく、鏡を守る筥自体にも、何かとても大きな力が宿っているような気がしてきます。
この鏡と筥を作ってほしいと頼んだ人、その依頼を受けて一生懸命作った人。そしてそれを死者と共に埋納した人。死を悼むそれぞれの人々の思いが、900年の時を経てもそのまま、伝わってくるようです。
こちらの鏡と鏡筥残欠は船橋市のHPに写真が載っているので、ぜひご参照ください。
また、サントリー美術館の後日、飛ノ台史遺跡公園博物館を訪れたところ、これらが収載されたパンフレットがありました。 |
|
こちらは「船橋の遺跡展(H27/11/3-12/27) パンフレット(船橋市飛ノ台史跡公園博物館編)」に収載されていた出土当時の鏡の様子。
下の写真は現品と復元品を並べたもの。 |
|
|
この比較の写真は「ふなばしのお宝展(H23/1/15-3/13)パンフレット(船橋市飛ノ台史跡公園博物館編)」より撮影した画像です。
向かって左が出土したもの、右側が再現された鏡と筥です。
筥に漆塗装されていたことが、現代まで残ることのできた理由と考えられているそうです。
鏡は銅の合金を用いて再現され、筥は蒔絵の人間国宝 室瀬和美氏が制作されたもの。平安時代にこうした調度品があってわざわざ副葬品として埋納したとは、本当にすごいことですね。 |
|
2017/6/25 長原恵子 |
|
|
|
|