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アート・歴史から考える死生観とグリーフケア |
「鳩と少女」吉田博 作
(福岡市美術館蔵) |
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作品名: |
鳩と少女 |
作者: |
吉田 博 |
技法: |
水彩, 紙 |
寸法: |
114.0×81.0cm |
制作年: |
明治43-44年頃 |
所蔵先: |
福岡市美術館 |
出展先・年: |
「生誕140年 吉田博展 山と水の風景」
東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
(東京・新宿, 2017)
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着物を着て髪の長い一人の少女が大きな木のそばに立ち、鳩にえさをあげている様子が描かれたもの。少女の右手は人差し指と親指で小さな餌をつまんでいるかのような仕草。そして左手は鳩に向かって「さあ、おいで」と手を差し出しているかのよう。
会場で見ると、画面全体がオレンジがかった色合いです。元からそういう色だったのでしょう?それとも経年変化に基づくもの?そうであれば、素晴らしい偶然の産物です。いずれにしても、現時点で見るその絵は、まるで夕映えの時刻を反映したかのようで、とても美しいです。
そのすぐ前に見た会場の年表には、吉田氏は明治40(1907)4月ふじを氏と結婚後、明治41(1908)年に長女が誕生したそうです。そしてその3年後、明治44(1911)年には長男が誕生しましたが、同年長女が亡くなったことが記されていました。
この絵の解説は、当日特に何もついてはいなかったけれど、描かれた時期が明治43年から44年にかけてだそうです。もしもこの少女が長女であれば、描き終えた時に長女は存命だったのでしょうか?もしそうであれば、彼にとっては長女の成長の軌跡を残す思い出の品だったのかもしれません。長女が亡くなった後、描き終えたのであれば、絵筆をとる吉田氏にとっては追悼の意味が込められていたかもしれません。
あるいはまったく別の少女がモデルになっていた場合、吉田氏にとって作品として残った「少女と鳩」は、この作品を描き終えた明治44年、すなわち長女の亡くなった年を強く想起させるものになったことでしょう。
こちらの作品は吉田氏の真骨頂である木版とは異なり、一点ものの水彩画です。穏やかな空気感と共に、少し翳ったオレンジの色合いが醸し出す少し寂しそうな感じ。それが何やら、この絵の中に閉じ込められている吉田氏の思いであるかのような気もします。 |
2017/9/1 長原恵子 |
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