病児・家族支援研究室 Lana-Peace(ラナ・ピース)
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石人
(東京国立博物館所蔵)
 
品名:
石人(重要文化財)
 
 
数量:
1個
出土:
福岡県八女市 岩戸山古墳出土
時代:
古墳時代・6世紀
所蔵先:
東京国立博物館所蔵
展示会場:
2017/11 東京国立博物館 平成館
列品番号 J-831(写真撮影許可あり)
 

こちらは福岡県八女市の岩戸山古墳から出土した6世紀(古墳時代)の石人です。まるで両手を肩の位置あたりまで上げた人のように見えます。顔の両脇にある垂れ下がっているのは、髪の一部。美豆良(みずら)という古代男性の髪形です。腹部中央にはベルトに刀子が吊り下げられている状態が表現されています(※1)

この石人、背面からも見ることができますが、ちょうど後頭部あたりに縦の線が何本も入っているので、髪の流れか何か被っているものの模様を表現しているのかと思ったところ、全く違う意味でした。石人の表面は人を表し、裏面は矢を入れて背に負う筒状の入れ物「靱(ゆき)」を表現しているのだそうです。つまり縦の線は靱の上方から出た矢の上端です。
靱については宮城県多賀城市の東北歴史博物館のウェブサイトの靱の埴輪が、とてもわかりやすいと思いますのでリンクしておきます(※2)。こちら約1400年から1500年前のもの。石人の時代と同じくらいでしょうか。

そもそも石人(せきじん)とは何か?ですが、埴輪と共に古墳に並べられた石製品です。石人は鳥取県の出土一例を除き、福岡、熊本、大分を中心に九州で見つかっているそうです。この石人は阿蘇山の阿蘇溶結凝灰岩(※3)から作られたもの。阿蘇ペディア(※4)を参照してみると、阿蘇溶結凝灰岩とは阿蘇山の噴火によって噴出した軽石、スコリア(マグマが固まった黒いもの)、火山灰などが堆積時にしばらく約700度以上の高温を保ち、ぴったりと密着してできた岩石。 この石人は展示台の上に乗せられた状態で160cmくらいはあったでしょうか。そばで見ると非常に迫力があります。

どこで石人を彫り上げたのかは不明ですが、岩戸山古墳から阿蘇山までの距離、約90km。もしも岩戸山古墳周辺で作ったのならば、阿蘇山の爆風によって、火砕流は随分遠くまで流れてきたことになります。あるいは阿蘇周辺で作ったものならば、大きな石人をわざわざ数十kmもの距離を大事に岩戸山古墳まで運んできた、ということになります。岩戸山古墳に埋葬された人をどうかしっかり守ってくれますように……そういった願いがとても強くこめられているように思います。

奈良時代の『筑後国風土記』の逸文に墳墓と石人・石盾などの記載が登場し、それは岩戸山古墳に関する記載だと考えられている(※5)そうですが、調べてみると『釈日本紀』第十三巻第十七にそのあたりのくだりが出てきます。筑紫国造磐井の項は冒頭「筑後国風土記曰…」で始まりますが、上妻県の南二里に筑紫の君磐井の墳墓があり、その周辺にそれぞれ60枚もの石人・石盾が置かれていたそうです。国文学研究資料館のデジタルコレクションとして見ることができます。587コマ中の228コマ目(※6)に相当します
大和朝廷に敵対して「磐井の乱」を起こしたほどの豪族の古墳ですから、こんなに立派な石人が置かれるのも、確かに納得です。

右の写真は2018年4月に訪れた東京国立博物館の特別展「アラビアの道−サウジアラビア王国の至宝」に出展されていた「人形石柱」です。こちらも成人の身長くらいありそうですが、上記の石人にくらべて厚みは薄いものです。展示会場の解説板には「アラビア半島とその周辺の先史文化に特徴的なシンプルな人物表現」(※7)とありました。
出土した場所の詳細はわかりませんが、岩戸山古墳の石人にもどこか共通する雰囲気があるように感じます。

人形石柱
カルヤト・アルカァファ出土
前3500〜前2500年頃
砂岩
サウジアラビア国立博物館蔵
東京国立博物館表慶館 展示
当方撮影 2018/4(撮影許可あり)
 
 
<引用・参考文献, ウェブサイト>
※1 文化遺産オンライン 石人
※2 東北歴史博物館 靱の埴輪
※3 e国宝 重要文化財 石人
※4 阿蘇ペディア 阿蘇溶結凝灰岩
※5 東京国立博物館 平成館 石人 展示会場解説板
※6 国文学研究資料館 デジタルコレクション『釈日本紀』
※7 東京国立博物館 表慶館 人形石柱 展示会場解説板
 
2018/8/1  長原恵子