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アート・歴史から考える死生観とグリーフケア |
棺に由来するマスク
(ルーヴル美術館 蔵) |
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品名: |
棺に由来するマスク |
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写真は会場配布パンフレットを当方撮影 |
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出土: |
エジプト出土 |
数量: |
1 |
時代: |
新王国時代、第18王朝アメンヘテプ3世の治世
(前1391-前1353年)
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素材: |
木、黒色・白色の石・青色のガラス |
寸法: |
18×17×11 cm |
所蔵先: |
ルーヴル美術館 古代エジプト美術部門 E11647 |
展示会場: |
2018/8 国立新美術館 「ルーヴル美術館展 肖像芸術ー人は人をどう表現してきたか」 |
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古代エジプトのミイラは時代と共に葬られ方が変わっていきました。古王国・中王国時代(前2700頃−前1710頃)はミイラの顔面を直接マスクで覆っていましたが時代は下り、新王国時代(前1570頃−前1070頃)になるとミイラの顔を覆っていたマスクは故人とは別の理想化した顔立ちのマスクが棺の上に置かれるようになり、人型の木製の棺へ変わっていきました。
やがてそのマスクは1〜3世紀頃になると、亡くなった本人の顔立ちが活かされた写実的な肖像画が板に描かれるようになったのです(※1)。 |
写真1は『NHKルーブル美術館 1』に掲載されていたミイラとマスクです。包帯が巻かされたミイラの顔の上に、布を漆喰で固めて作ったマスクが置かれていた例となります。死者のために時間をかけ、心をこめて丁寧に作業された様子が伝わってくるようなミイラとマスクです。 |
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展示会場で見たマスクは、マスク単品が会場壁面に飾られていましたが、こちらは元々、人型棺の頭部の位置に蓋に釘で固定されいたものでした。右眉と右目は半分欠け、右眉から右口角に向けて縦に大きな亀裂が入っていますが、とても三千年以上前の物とは思えないほど、滑らかな木肌と美しい鼻筋は今も活き活きとしています。
強そうな意思が現われた印象を持つこのマスクですが、眉は薄い青色で盛り上がって弧を描き、目はまるで青い縁の眼鏡をかけているかの如く、青いガラスによって太く縁取られ、とても印象に残ります。古代エジプトの遺物に描かれている人物像は、目の周りを明瞭に太く縁どって描かれているものを多く目にしますが、ツタンカーメンの黄金マスクの目も確かに、このような青い縁取りがありますね。
このマスクの眼球部分は黒と白の石の象嵌で表現されているそうです。目力が宿っているかのようですね。そこにはやはり死後の生が強く意識されていたのだろうと思います。こうした棺のマスクの技法は新王国時代・第18王朝の治世(前1391−前1353年)に制作されたマスクの特徴(※2)だそうです。
同展覧会にはエジプトの古代都市テーベから出土したと考えられるシナノキに描かれた女性の肖像画(2世紀後半)も出展されていました(ルーヴル美術館 古代エジプト美術部門 N2733.3)。理想化された顔立ちではなく、まさに生前の息吹が伝わってくるような肖像画です。大きな瞳の黒髪の女性は真珠のイヤリングと金のネックレスをつけて正面を向いていました。こうしたミイラ肖像画について歴史を辿ってみると、岩山三郎氏の著書『古代の没落と美術 ミイラ肖像画とその時代』に詳しく出ていました。当初はミイラに使用するものと同じ材質の麻布に描かれたそうです。やがてセイヨウスギ、カエデ、イチジク、シナノキといった柾目の通った八号大の薄い板に描かれるようになりました(※3)。展示会場の肖像画もシナノキでした。そしてその人物が亡くなった後に、ミイラ職人が肖像画の周辺を切り取って小さくし、ミイラに麻紐で固定したのだそうです。
そうしたミイラ肖像画の参考となるカラー写真が中嶋明氏の論文「初期キリスト教イコン」と「ファイユーム・ミイラ肖像画」内に登場していましたので、下に示しておきます。蜜蝋画で描かれたこの肖像画、長い年月を経てもなお、生前の姿を美しく留めています。蜜蝋画は耐光性、耐水性に優れ、黄変もほとんどない(※4)といった特性があるそうです。肖像画の制作に蜜蝋を取り入れていること自体、永遠の生の願いを反映したものだったのかもしれません。
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写真2 1世紀, 2世紀のミイラ肖像画
向かって左から
A 1世紀前半, ケンブリッジ・ガートンカレッジ, エンカウスティック, 麻布
B 2世紀後半, ロンドン大英博物館, エンカウスティック, 板
C 1世紀半ば, ロンドン大英博物館, エンカウスティック, 板
D 2世紀後半, ベルリン考古学博物館, エンカウスティック, 板 |
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永遠の生、それはマスクや肖像画だけでなく、その制作過程で用いられる技法等、あらゆるところに願いがこめられているのかもしれませんね。 |
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<参考ウェブサイト・参考文献> |
※1 |
新国立美術館ウェブサイト 作品解説 |
※2 |
前掲※1ウェブサイト |
※3 |
岩山三郎(1973)『古代の没落と美術 ミイラ肖像画とその時代』美術出版社, p.31 |
※4 |
中嶋明「初期キリスト教イコン」と「ファイユーム・ミイラ肖像画」から見る絵画表現の進展と変化(2014)武蔵野美術大学研究紀要 (45), pp.85-96 |
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<引用写真> |
写真1 |
ミイラとカルトナージュのマスク
『NHKルーブル美術館 1』日本放送出版協会, p.36 |
写真2 |
1, 2世紀のミイラ肖像画
A 1世紀前半, ケンブリッジ・ガートンカレッジ, エンカウスティック, 麻布
中嶋明「初期キリスト教イコン」と「ファイユーム・ミイラ肖像画」から見る絵画表現の進展と変化(2014)武蔵野美術大学研究紀要 (45), p.90 |
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1, 2世紀のミイラ肖像画
B 2世紀後半, ロンドン大英博物館, エンカウスティック, 板
C 1世紀半ば, ロンドン大英博物館, エンカウスティック, 板
D 2世紀後半, ベルリン考古学博物館, エンカウスティック, 板,
中嶋明「初期キリスト教イコン」と「ファイユーム・ミイラ肖像画」から見る絵画表現の進展と変化(2014)武蔵野美術大学研究紀要 (45), p.89 |
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2018/9/5 長原恵子 |
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