このような内容のお話です。 |
長原私訳:
だんだんと時が経ってもたつにつれて、長家は先立った妻のことがとても恋しく、悲しかったのです。白居易の『白氏文集』を思い出し、長家は自分の心と重ね合わせていました。そして『白氏文集』の中に登場する漢詩「李夫人」に記されている漢の武帝の悲しみもこのようだったのだろうと思ったのです。
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ここに出てくる漢詩「李夫人」とは、8世紀から9世紀の唐の詩人 白居易の詩です。
漢の武帝は紀元前2世紀から1世紀にかけていらっしゃった皇帝です。
そして藤原長家が漢詩「李夫人」を思い出したのは11世紀初頭。
白居易は900年ほど前の、武帝の死別の悲しみを詩にし、その200年ほど後になって長家がその詩に自分の心を重ねたということになります。
長い時が経っても、先立たれた大切な方に会いたい、話がしたいと思う気持ちは、変わらず共感を得るものだということがわかりますね…。
ここで「李夫人」に詠われた武帝のお話をしないと、話が見えにくいと思いますので、少しだけご紹介いたします。
武帝は大変愛した女性 李夫人がいらっしゃったのですが、李夫人は病気のため先立ってしましました。どうしても李夫人に会いたかった武帝は、方士(仙人の術や魂を招く祈祷や仙薬を用いることができる人)に反魂香を焚いて、李夫人の魂を呼び寄せてもらったのです。それが漢詩に詠われているのです。
きっと長家も、亡くなった長家室の魂を呼び寄せたいと思うほど寂しかったし、長家室の魂は自分の見えない遠い世界で生き続けていると信じていたのでしょう。
でも反魂香による魂の再会は決して、武帝に喜びだけをもたらしたものではないことを、白居易は詠んでいます。 |
魂之不来君心苦
魂之来兮君亦悲
背燈隔帳不得語
安用暫来還見違
傷心不獨漢武帝
自古及今皆若斯
引用文献:
田中克己(1996)『漢詩選 10 白居易』集英社, p96
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このような内容のお話です。 |
長原私訳:
李夫人の魂が戻ってくるまでの間、武帝の心は苦しみ、
反魂香によって李夫人の魂が戻ってきても、武帝の心は悲しむのです。
李夫人の魂は灯火を背にしているけれど、
寝台の周囲に垂らした長い幕を隔てて、
武帝と李夫人の魂は語り合うこともできないのです。
せっかく、わずかの間、魂が戻ってこれたというのに、
どうして、また、離れ離れにならなければいけないのでしょう。
そんなふうに心を傷めているのは漢の武帝一人だけではないのです。
古くから今にかけて、皆、このような傷心を抱えていたのです。
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亡くなった方の魂と生きているこの世の私たちが、語り合うことができないというのは、寂しいことです。でも、魂の方からは私たちのコミュニケーション手段の枠を遥かに超えた、何か自在な方法をとれるのではないかと思うのです。「見える」「聞こえる」「話せる」にこだわると、何も起こっていないように思えるけれども、実際は人智を越えた何かつながりと伝心方法があるのではないかなぁと。
そうであれば、良いのになぁと思います。 |
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あなたのお子さんの魂は、どんなふうに語りかけているのでしょう。
あなたにはそれが聞こえなくても、ずっと語りかけ、あなたを守っているのだと思います。 |
2013/7/20 長原恵子 |