確かな真実 |
3歳と11歳の息子さんを病気で亡くされたエイブラハム・リンカーン氏の悲しみについて、エッセイ「声を詰まらせた父」で書きましたが、今日はリンカーンが辛い日々を過ごす時に、何か力になってくれたものはないのだろうかという視点から、考えていきたいと思います。
アール・A・グロルマン編著の『愛する人を亡くした時(新版)』(松田敬一訳, 2011, 春秋社)は、冒頭にリンカーンの言葉が記されています。
その言葉の出典が何であるか、記載がないので、どのような場面で発せられた声なのか、そこまではわかりませんけれども、リンカーンの気持ちがよく表れています。うつ病を患っていたのではないかと言われるリンカーンですが、そうであっても、お子さんを亡くした後の気持ちの荒波が、少しは和らぐことが示されていることは、大きな驚きです。 |
私たちが住んでいる、この悲しみに満ちた世界にあっては、悲しまない人など一人もいません。
悲しい時には、胸が張り裂けそうな苦しみを味わいます。
その苦しみは、時を待たねば、完全には消え去りません。
やがていつの日か心の晴れるときがこようとは、いまは夢にも思えないことでしょう。けれども、それは違います。
あなたは、きっとまた、幸せになれます。
この確かな真実を心にとめることで、いまのみじめな気持ちが少しは和らぐはずです。
自分自身の体験から、それは確かだと申しているのです。
エイブラハム・リンカーン
引用文献:
アール・A・グロルマン編著, 松田敬一訳(2011)
『愛する人を亡くした時』新版, 春秋社, p.7 |
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ただ単に時が経てば、悲しみが薄らぐというわけではありません。
いつの日か心の晴れるときがきて、きっとまた、幸せになれる…
それを「確かな真実」と言い切ることのできる、力強さはどこからきているのでしょうか…?。
いろいろと本を読み進めていくうちに、それはリンカーンの持っていた
「死後の世界観」による影響なのではないかと、思うようになりました。
リンカーンは次男エドワード君を亡くした2年後、1852年にお父様を亡くされました。お父様の具合が悪く、死が近いことを知らされた時、リンカーンは、お父様へ伝えてほしいこととして、継弟のジョンに手紙を書いたのだそうです。そこには、リンカーンの死後の世界観が表れていました。 |
「今会っても、嬉しいよりつらいことばかりということにならない保証がないし、彼がこの世を去るべき運命ならば、先に亡くなったいとしい人々とあの世で嬉しい再会を遂げ、神のお導きによって、今生きているわれわれもやがては彼らの仲間入りできることを願っている、父にはそう伝えてください」
引用文献:
ジョシュア・ウルフ・シェンク著,越智道雄訳(2013)
『リンカーン うつ病を糧に偉大さを鍛え上げた大統領』
明石書店, p.166 |
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亡くなった後、人はあの世でまた再び会うことができるのだという思いが、リンカーンの心の中にしっかりとあったのでしょう。
今、この世で顔を見たり、言葉を交わすことができないことは、本当に寂しいこと。でも、いつかは自分も死ぬのですから(死なない人などいないのですから)、あの世で再会できるのだと思うことにより、虚無感から少しずつ抜け出せて行けたのではないかと思うのです。
お子さんへの愛情の行き先は、断崖絶壁のきわまで追い詰められてしまったのではなく、今迄とは違ったつながりによって、実はずっと絶え間なくつながっている…。
ですから、お子さんが亡くなったとしても、自分は父であることを手放す必要はないのです。父は父のままで良いのですから。
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再会した時、お子さんがあなたのことを誇らしい父として、母として、わくわくしながら迎えてくれるように、そんな生き方をしてほしいなと思います。あなたのためにも。お子さんのためにも。 |
2014/4/14 長原恵子 |