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家族の気持ちが行き詰まった時
「心のひとさしゆび」を見つけた母

赤ちゃんは指さしを始めるようになると、急速に世界が広がっていきますね。指さしは赤ちゃんが自分の周囲にある特定の何かに対して、はっきりと興味を持ったことを表すサインですから。親御さんにとっては、成長の喜びを実感できるサインでもありますが、それが他のお子さんとの違いを気付くきっかけになる、という場合もあります。

佐々木博之さん・志穂美さんご一家(詳しくはこちらをご参照ください)の三男航君はなかなか、指さしをしませんでした。

同い年の子どもたちは、まだ「赤ちゃん」といわれる時代に指さしをするようになる。想いを込めて指をさし、誰かとその想いを共有する。だけど、航のひとさしゆびはいつまで待っても何もささなかった。

指さすことのできない者の想いは、まわりがくみとってやらないといけない。その心のひとさしゆびが何をさしているのか、気づいてあげないといけない。そのむこうに、見落としてしまいそうな小さな、だけど確実な幸せがあるはずだから。

私たちは航の想いをくみとってやることに力をそそいできた。


引用文献:
佐々木志穂美(2006)『さん さん さん〜幸せは、いろんなかたちでそこにある〜』新風舎, p.145

このエピソードは、まだ航君が自閉症と診断される前のお話。なかなか指さししないことが、成長の個人差内であるのか、そうでないのか…考え出すと、渦中の親御さんは心が不安定になるかもしれません。でもそこでイライラするのではなく、「想いをくみとってやることに力をそそいできた。」それはとってもすごいことだと思います。

私が個人的に思うには、自閉症のお子さんは、周りに関心がないのではなくて、その関心が表情や行動へとナチュラルにつながらないことから、関心がないように見えてしまうのでは?
「心のひとさしゆび」って良い言葉ですね。それは、決して自閉症のお子さんだけでなく、他のお子さんにも通じるところがあるように思います。そして、赤ちゃんだけでなく、思春期を迎えるようなお年頃になっても。

航君は保育所に入所した頃から、人の目が見られなくなったり、少しは出ていた言葉が消えていきました。 二階の窓から出ていこうとしたり、窓にすがって窓ガラスを割ったり…ということもありました。時には石を食べてしまうこともあり、レントゲンに写った小石は千個はあるだろうと言われました。それでも年長さんの運動会では鼓笛隊の太鼓の練習に、参加して頑張っていました。

小学校にあがってから、航君の行動はだんだんと激しくなり、4年生の頃には駐車中の車のフロントガラスに自分から頭をぶつけに行ったり、コンクリートの柱の角に額をぶつけようとするようになりました。人の頭やおなかを蹴ったり、大声をあげながら走ったり、追いかける志穂美さんの腕にも噛みついたりするようになりました。

ご家族はどれほど心を痛めたことでしょう。
でも志穂美さんは、そこからもっと深いことを見出していったのです。

いつも私にくっついていた、甘ちゃんの航がどうしてこうなってしまったんだろう。私は私のつらさと周りへの申しわけなさで頭がいっぱいで、航はもっと苦しいであろうことなど、思いやってもみなかった。
つらかった。航が怖かった。

でも、あの時期があってよかった。信頼できる精神科医(自閉症児の療育は小児精神科の力も必要)や相談者に巡り合った。自閉症の勉強をした。航が生活しやすい工夫をしてやらないといけないことを知った。自傷も他害もなくなった。笑顔が増えた。

航は航に戻ってきた。

苦しいとき、その苦しみのもとは、もっと苦しんでいる。
「困った子」は、その本人こそが「困っている子」。

それに気づけるようになったあの日々は、大切な時間だったと、いまは思う。


引用文献:
佐々木博之・佐々木志穂美(2010)『洋平へ』主婦の友社, p.41

 
「困った子」は「困っている子」、そういう気付きと発想の転換は、いろんなこどもたちに多くの幸をもたらしてくれると思います。
2016/5/12  長原恵子
 
関連のあるページ(佐々木博之さん・志穂美さん)
「7年越しの贈り物」
「平凡な日々が生み出す力」
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「「心のひとさし指」を見つけた母」  ※本ページ
「グアバの気持ち」
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