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自閉症の方は、内に秘めた感情、思考を外に向けて十分に発信することは難しいことが多いのですが、東田直樹さんは執筆活動を通して、その豊かな表現力を存分に発揮されてきました。

先日見たDVD『君が僕の息子について教えてくれたこと』の中では、自閉症について40年以上研究されている児童精神科医の杉山登志郎医師が、直樹さんの診察を行う様子が取り上げられていました。そして直樹さんは豊かに発達している感情が、何らかの原因によって言葉とうまく結びつかない状態「言語失行」と診断され、直樹さんの同意を得てMRI検査を行われました。
同意をされる前、杉山医師へ向けた直樹さんの質問は、非常に核心部分をついたものでした。
その検査をやって、「何がわかるのか?」「治療ができるのか?」と。

騒々しく狭い空間内でじっとしていなければいけないMRI検査。それは音に敏感な自閉症の方にとっては、健常者が考える以上の負担を強いるものだと言えるでしょう。その時杉山医師は、検査をして何もわからないかもしれないし、治療につながるわけではないけれども、でも、検査で明らかになったことは10年後、20年後の治療方法が見つかる可能性が非常に大きくなるだろうと説明されました。

「それでは、みんなのために受けたいと思います。」直樹さんはそう言って後日、脳神経の結びつきと脳の部分ごとの体積を調べるためのMRI検査を40分間、受けたのです。

「自分のため」ではなく「誰かのため」の検査。今の自分にメリットはなくても、何年も先の誰かのために役立つためなら…という発想。それって、すごいことですね。流暢に自分の気持ちを話すことのできる人々はたくさんいるけれど、こんな風に自分が犠牲を払って、誰かの役に立とうと思える人はどれだけいるのでしょう…。

MRI検査の結果、直樹さんは頭の中で言葉を話す役目を担うブローカ野と、言語を理解するウェルニッケ野をつないでいる神経線維の集まり(弓状束:きゅうじょうそく)に問題があることがわかったのだそうです。
杉山医師の診断では、そこの働き(伝達)がうまく機能していないことが、会話できない原因だろうということでした。

一方、直樹さんは、他人の意図を読み取る役割を持つ右脳のある部分の体積が、健常者より大きいこともわかりました。それはうまく機能できていない部分を補おうと、他の部分が発達する可能性を示すものだと杉山医師は考えていらっしゃいます。

ハンディキャップがあるところにはその代償のための脳をうんと発達させた部分があるわけですよね。我々は今まで、マイナスの部分に目を留めるってことが多かったんですね。

でもそうじゃなくて、これだけ自閉症グループと言うか、自閉症スペクトラムというのが広がりがあるということが分かっている以上、この代償的に伸びているところは、どこなんだろうという、それに注目をするということがこれからの療育の中心になってくると思います。

その子の脳が喜ぶことをやってやればいいんですよね。
それが一番、自閉症の子を伸ばしていく道になると思います。


引用DVD:
NHKエンタープライズ(2015)『君が僕の息子について教えてくれたこと』杉山登志郎医師インタビューより

とかく他の人と比べて、できない部分ばかりに目が行ってしまいがち。
でもきっとお子さん誰もが、そうした優れた代償機能を持っているはず。たとえば目の不自由なお子さんが、たとえ目は見えなくても空間を察知する能力に非常に長けていることは広く知られているけれど、他のいろいろな病気のお子さんも、きっとそうした代償機能は同じように発達しているはずですよね。

病院ではどうしても、十分ではない機能を指摘をされることになり、診断を聞いて落ち込んだり、途方にくれたりする親御さんはたくさんいらっしゃいます。でも、その指摘されたところが重度であればあるほど、それに優る何らかのものを持っていると確信することによって、そこから始まっていく心の矛先が変わっていくはず…。

しかしながら、現実としてそこまで指摘してくれる病院は、そう多いわけではないでしょう。
だからと言って、落胆する必要はないと思うのです。
そういった優れた代償機能の多くは、病院の検査などでは明らかになりにくいものかもしれません。そして検査がその人の能力をすべて調べ切ることなど、到底できないわけだし。誰の目にも止まらないかもしれないけれど、確かに存在する何か素晴らしい能力をどのお子さんも持っているのだと思います。
それを一番よく気付くチャンスを持っているのは、きっとご家族ではないかなあ。
何気ない普段の暮らしの中では、そのアンテナは閉じられているかもしれない。でも、いつもとは立ち位置を変えて視点が変わると、きっとその何かが見えるはず!それはお子さんへの新しい発見をもたらすだけでなく、あなたの心から生まれてくる様々な感情も変えることになります。

 
あなたのお子さんにも、きっと何か「すごいな!」って思えるところがあるはず。一緒に見つけていきませんか?          
2015/7/12  長原恵子
 
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