母の子宮に抱かれて永眠した子
(宮城県東松島市・里浜貝塚) |
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大正7(1918)年、東北帝国大学の松本彦七郎先生、早坂一郎先生らによって宮城県東松島市の宮戸島の里浜貝塚で行われた発掘調査に関するお話を3回取り上げてきましたが今日は4回目、いよいよ最終回となりました。
2019年7月、里浜貝塚の近くにある奥松島縄文村歴史資料館を訪れた際、2階にひときわ特別感の漂うスペースがありました。展示ケースの中でスポットライトを浴びていた頭蓋骨と小さな骨、それは大正7年の一連の発掘の際、寺下地点から発掘され第14号と名付けられたものでした(写真1)。
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この頭蓋骨(写真2)展示の上方壁面に復元された顔のパネルがありました(写真3)。同館パンフレットによるとこちらの人骨は18歳から20歳くらいの成人女性だとわかったそうです。
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当日、思いがけず職員の方に説明していただく機会を得て里浜貝塚に関する様々なお話を伺えました。当日はわからなかったのですが、これまで長く里浜貝塚の発掘調査や研究に携わってこられた菅原館長さんだったようです。貴重なお話に感謝、感謝です! 展示されている14号の頭蓋骨はレプリカで、現物は東北大学理学部で保管されているということでした。
そして頭蓋骨の横に並べられていた小さな骨(写真4,5)、こちらは第14号の腰の近くから見つかった胎児の骨ということで、14号のお腹の中にいたと考えられるそうです。胎齢不明ですがこちらの骨はレプリカではなく、現物だそうです。
美しい造形を保ち見つかっています。大正7(1918)年の発掘の人骨は出土土器から縄文晩期初頭から中葉に相当する(※1)と考えられていますから、今から3000年ほど前ということでしょうか。こんなに小さくて細い骨なのに、途方もなく長い年月を経て残っていたのだなあとしみじみ思います。それは貝塚という特殊性から酸性土壌が中和されたといった事情はあるとは言え、自然のその働きは本当に驚きをもたらします。
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妊娠中、何らかの医学的な理由によって14号妊婦さんが亡くなり、その赤ちゃんも共に亡くなったのでしょうか。それまで元気に順調に過ごしていたけれども、ある日突然事故や災害に見舞われて、命を落とすことになったのかもしれません。
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写真6と写真7は松本先生らが発掘されたエリアから300mほど西北に向かった海沿いの風景です。このあたりは後年の発掘調査で塩作りが営まれたことを強く示唆する製塩土器が見つかっており、人々の暮らしを支える大切な場所でした。14号女性も海辺から汲んだ海水をこのあたりで焚いて、塩作りに励み、調理に使っていたことでしょう。当時の18〜20歳の妊婦さんと言えば、もしかしたら既に一人目のこどもはいて、第二子、三子の妊娠であったかもしれません。里浜に打ち寄せる波音よりも強く、突然妻と子を亡くした男性、そして母親と弟あるいは妹を亡くした幼子の慟哭が響き渡ったと思われます。
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14号の詳細は発掘にあたった松本先生や早坂先生の論文に出てこないことが非常に残念です。大正7年発掘に関する最も詳しい論文は松本先生が大正8(1919)年、『現代之科学』に発表された「宮戸島里浜介塚人骨の埋葬状態(予報)」(※2)で、松本先生が描かれた発掘時の見取り図はLana-Peaceエッセイ「あたたかい寝床に込められた亡き子への思い(縄文晩期初頭〜中葉)」の写真8(※3)で紹介しています。こちらは第13号発掘前に描かれたものであり、説明文においても第1号から13号までが対象となっています。論文タイトルに「予報」とあることからも14号以降はこの論文執筆から時間をおいて発見されたものと考えられます。
とは言え、今から100年以上も前に発掘された縄文時代の母子の人骨、しかも胎児の人骨が美しい形を残してこうして今の時代に伝わっていることは揺るぎのない事実です。14号女性は我が子の誕生を心待ちにし、その腕に抱きしめたかっただろうと、心が痛みます。けれども、しっかりと子宮の中で抱きしめながらこの子と共に死後の世界に旅立ちました。そして発掘された後も再びこうして寄り添うように展示されていました。生前叶うことのなかった14号女性の願いは阻まれることなく生かされ続けている、それが彼女と赤ちゃんに捧げられた現代人からの供養のようにも感じられます。
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<引用参考文献・資料, ウェブサイト> |
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<写真> |
写真1 |
里浜貝塚 第14号人骨 |
写真2 |
里浜貝塚 第14号人骨 成人頭蓋骨 |
写真3 |
里浜貝塚 第14号人骨 成人復元図 |
写真4 |
里浜貝塚 第14号人骨 胎児骨 |
写真5 |
里浜貝塚 第14号人骨 胎児骨 |
写真6 |
里浜貝塚 西畑北地点 |
写真7 |
里浜貝塚 周辺の海 |
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写真1-2, 4-5 奥松島縄文村歴史資料館展示品 |
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写真3 同館展示パネル |
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写真1-7 2019/7 当方撮影 |
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修正 2020/6/14, 初出
2020/6/13 長原恵子 |
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